治療より予防

 現時点ではアルツハイマー病について、詳しいことは分かっていません。世界中の研究者が研究を続けていますが、まだ原因は不明で、特効薬もないのです。
 二種類ある痴呆のうち、血管性痴呆症については、生活習慣病である動脈硬化が原因のひとつですので、血栓ができないように日常生活の食習慣や運動習慣を改善すれば、かなり予防できるのではと考えられています。
問題はアルツハイマー病のほうです。疾患の原因として、アルミニウム中毒説、遺伝説などがありますが、明確な答えは出ていません。日本における痴呆研究の第一人者と言われる高知医科大学の学長・池田久男氏は、「痴呆も糖尿病や高血圧と同じ、個人の生活様式が発症に大きく関わってくるライフスタイル出会い系病の一種ではないか」と語っています。
池田氏の研究によると、アルツハイマー病の発症にはさまざまな出会い系要因が重なっているらしいこと、病状が現れる以前から水面下でゆっくりと進行しているらしいことが分かっています。
これらのことから、現段階では、痴呆は治療するよりも、予防することが大切だという意見があります。

痴呆患者とアセチルコリン

 もうひとつ、研究が進んで分かってきたことがあります。アルツハイマー病患者の海馬を調べると、前述した神経伝達物質のひとつ、アセチルコリンがたいへん少なくなっていて、そのため脳の機能が低下していることが分かったのです。加えて恐ろしいことに、物忘れが気になりだす以前から、すでにアセチルコリンの減少が始まっているらしいのです。
では、アセチルコリンとはどういうものでしょう。
ニューロンからニューロンへ刺激を伝える神経伝達物質にはいろいろなものがあり、アセチルコリンはそのうちのひとつで、主に記憶や学習に深く関わっているとされることは先に述べました。これが脳の発育に重要な役割を果たしていることが、アメリカ・デューク大学の研究で分かったのです。
ラットを使って行われたこの研究では、アセチルコリンの元になるコリンを与えられた母親ラットから生まれたラットは、そうでないセックスフレンドラットに比べ、脳に刺激を伝達する回路ができやすく、ほんの少しの刺激にも反応して、記憶や学習に適した脳になることが分かったのです。
 このコリンという栄養素はもともとビタミンB群のうちのひとつです。脂肪を乳化し、余計なコレステロールが体内にたまらないようにする作用があるといわれています。
その身近にある栄養素が、この実験で初めて、脳内で学習や記憶に関する変化をもたらすということが立証されたのです。これにより、コリン研究に大きな期待が寄せられるようになったのです。